「そろばんと公文、結局どっちがいいの?」——この問いに、明確な正解はありません。4歳の息子に算数系の習い事をさせようと考えたとき、候補になったのが「そろばん」と「公文」でした。
どちらも長く続いている定番の習い事です。公文には算数・数学だけでなく国語や英語もあり、教材は「やさしい問題から高度な問題へ」と非常に細かなスモールステップで構成されています。自学自習で進んでいくことも、公文の大きな特徴です。
一方、そろばんにもスモールステップがあります。簡単なところから始めて、珠の動かし方を覚え、少しずつ計算を身につけていく。そして最終的には、そろばんを使わず頭の中に珠をイメージして計算する「暗算」につながっていきます。
どちらにも魅力があり、我が家でもかなり迷いました。
今回は「そろばんと公文のどちらが優れているか」ではなく、4歳の息子には何を身につけてもらいたいのか、そしてなぜ最終的にそろばんを選んだのかを書いてみます。
(専門家やそろばん指導者による、より客観的な比較情報は、別記事「そろばん vs 公文論争、専門家・指導者の意見まとめ」にまとめています。)
公文の方が、成果が出るまで早そう
最初に感じたのは、公文の方が学習の成果を実感しやすそうだということでした。
教材を一枚ずつ進めて、できるようになれば次へ進む。「昨日できなかったことができるようになった」「ここまで教材が進んだ」というように、成長が見えやすい仕組みです。
実際、以前の記事でも少し触れた、同じ保育園に通っている、公文に通っているお友だちですが、1年ほど前から公文に通っていて、数字が好きな子なのですが、確実に伸びているように感じます。最近は国語も始めていて、文字を読んだり書いたりする力は、うちの子よりかなり進んでいます。
身近でそういう姿を見ているので、「公文ってやっぱりすごいな」と思うところがあります。
そろばんもスモールステップですが、私には、公文よりも一つの能力を身につけるまでに時間がかかるように感じました。単純に「1に4を足す」ような簡単な問題でも、筆算であれば瞬時に「5」と答えが出ます。ところが、そろばんの場合は、1が立っている状態から4を直接足すことができないため、「5を足して、1を引く」という複数のプロセスを踏む必要があります。そういった基礎的な珠の動かし方を覚え、何度も繰り返し練習して、少しずつ計算を速くしていく。さらに暗算まで身につけようと思えば、長い時間をかけて積み上げる必要があります。
その代わり、そこまで身についたときには大きな力になるのではないか。私はそんな印象を持ちました。
中学受験を考えるなら、そろばんも早い方がいいと思う
ここは少し矛盾しているように見えるかもしれません。
「そろばんは習得に時間がかかる」と思った一方で、もし中学受験を考えている家庭がそろばんを始めるのであれば、私は早い方がいいと思っています。
中学受験では、算数が重要な科目になる学校も多く、計算を素早く正確に処理できることにはメリットがあります。そろばんでそこまでの計算力を身につけるには、それなりの時間が必要です。だから、中学受験を視野に入れて「そろばんで計算力を鍛えたい」ということであれば、幼児期や低学年から始めて長く続けるという考え方は十分ありだと思います。
逆に言えば、中学受験まであまり時間をかけられない、例えば小学校中学年くらいから本格的に対策を始めたいという場合は、公文の方が向いているかもしれません。そろばんは暗算力という大きな武器になる反面、そこに到達するまでの時間がかかる習い事です。残された時間が限られているなら、計算のスピードと正確性を短期間で積み上げやすい公文の方が、現実的な選択になりそうです。
一方、大学受験で必要になる計算力という観点であれば、公文もそろばんも、どちらも十分すぎるくらいの力を身につけられると思います。公文とそろばん、それぞれを極めた者同士で比べれば、そろばんを学んだ人の方が、計算のスピードは圧倒的に速いかもしれません。ただ、大学入試レベルの数学では、そこまでの超人的計算スピードは求められていません。大学受験の数学は、単純な計算の速さよりも、解法を組み立てる力や、複雑な問題を読み解く力が問われる場面が多くなります。その意味では、どちらの習い事を選んでも、計算力そのものが受験の壁になることは、まずないだろうと考えています。
一方、我が家は今のところ中学受験をする予定はありません。小学校、中学校、高校と基本的には公立ルートなのかな、と漠然と考えています。その先に大学受験があるのかな、というくらいの長期的なイメージです。
中学受験に時間や労力を費やさなくていいのであれば、その分を、家族でゆっくり過ごす時間に充てたり、英語の勉強を少し早めに始めさせてみたりすることもできるかもしれません。中学受験をしないという選択には、失うものだけでなく、その分浮いた時間をどう使うか、という前向きな検討の余地もあるのだと思います。
もちろん、これは今の時点での話。子どもが成長して本人の希望が出てくれば、そのときに考え直すつもりです。
そろばんに一番期待しているのは「暗算能力」
では、なぜ時間のかかるそろばんを選んだのか。一番期待しているのは、やはり暗算能力です。
「計算が速くなれば便利だから」というだけではありません。
小学校、中学校、高校と進んでいけば、算数や数学では計算そのものよりも、問題の意味を理解したり、どんな解法を使うのか考えたりすることが重要になっていきます。
そのとき、計算するたびに頭の中で一生懸命考えなければならないよりも、基本的な計算がかなり自動化されていた方がいいのではないか。計算で悩む時間を減らして、問題の意味や解法を考えることに力を使える。そこに、そろばんの大きな魅力を感じました。
もちろん、そろばんをやれば数学が得意になる、と単純に考えているわけではありません。数学には論理的に考える力、問題を構造化する力、図形を理解する力など、計算以外にもさまざまな能力が必要です。
それでも、少なくとも「計算でつまずかないための土台」を幼児期から作っておくことには意味があるのではないか。これが、私が息子にそろばんをやってほしいと思った大きな理由です。
公文は少し「勉強」っぽいなと感じた
もう一つは、かなり個人的な感覚です。公文は私には少し「勉強」っぽいなと感じられました。
もちろん、公文にも子どもが楽しめる部分はあると思いますし、これはあくまで私が資料や実際の子どもたちを見て感じた印象です。
息子はまだ4歳。集中力が長く続かず、椅子にじっと座っているのもあまり得意ではありません。少し気になるものがあると、すぐにそちらへ意識が向きます。
そんな息子には、紙の問題を解くことだけよりも、珠を指で動かしながら取り組むそろばんの方が、入り口としては合っているのではないかと思いました。
これは調べて分かったことというより、直感に近いのですが、指を細かく動かすこと自体が、ピアノの練習と同じように一種の脳のトレーニングになるのではないか、という気もしています。そろばんは、右手の指で珠を弾きながら、同時に数字や計算を処理していきます。この「指先を使いながら考える」という感覚は、紙に書いて計算する公文とは、少し違う種類の刺激になるのではないかと思いました。
まだ4歳なので、これも実際にやってみなければ分かりません。だからこそ、短期レッスンで試してみることにしました。
「百ます計算」も、実は候補に入っていた
公文と並んで、実は「百ます計算」も検討していました。市販のプリントや専用ノートを使い、家庭で毎日コツコツ取り組む学習法です。費用もそろばんや公文に比べて格段に安く、道具もほとんど必要ないので、経済的には一番手軽な選択肢でした。
ただ、これも結局は公文と同じ理由で見送ることにしました。毎日決まった時間にプリントをやらせて、タイムを記録して、といった一連の流れを、親が根気強く続けられるかというと、うちには難しいと判断しました。以前の記事で書いた通り、うちの子は「教室という逃げられない環境に身を置かないとやらない」タイプです。家庭でのドリル学習は、そもそも本人以前に、親である私たちの継続力が試される仕組みだと感じました。
家庭でコツコツ型の学習を無理なく続けられるご家庭であれば、百ます計算はコストパフォーマンスの面でかなり魅力的な選択肢だと思います。我が家の場合は、そこを見極めた上で、教室に通う形のそろばんを選んだ、という経緯です。
学習習慣という点では、公文の方が強いかもしれない
小学生になったら、自分で勉強できるようになってほしい。
私は仕事をしているので、毎日子どもの隣に座って、最初から最後まで勉強を教えるのは時間的にも難しいと思っています。その意味では、家庭で毎日教材に取り組む公文は、とても魅力的です。
一方で、そろばんにも学習習慣を作る可能性はあると思いました。決まった曜日に教室へ行き、決まった時間に席に座る。先生の話を聞き、自分で課題に取り組む。そして、できるようになったら次の課題へ進む。
公文のような家庭学習とは形が違いますが、「勉強することを生活の一部にする」という意味では、そろばんにも意味があるのではないかと考えました。
どちらも、自分のペースで進んでいける
比較する中で、公文とそろばんには一つ共通点があると気づきました。どちらも、周りの子と比べて競争するのではなく、その子自身のペースで進んでいける仕組みだということです。
公文は、学年に関係なく、その子ができるところまでどんどん教材を進められます。逆に、つまずいたところがあれば、そこにじっくり時間をかけることもできます。
そろばんも同じで、級や段の進み方は完全に個人差があります。早く進む子もいれば、時間をかけてじっくり身につけていく子もいます。まだ4歳の息子は、他の生徒さんに比べて年齢が低い方だと思いますが、それでも「周りと同じペースで進まなければいけない」という焦りを感じさせずに済むのは、ありがたいことだと思っています。
一斉授業のように、周りに合わせて足並みを揃える必要がない。この点は、公文とそろばん、どちらを選んでも共通して得られる安心材料でした。
国語まで考えると、公文にはかなわない
ここは、そろばんの明確な弱点です。
当たり前ですが、そろばんを習っても、国語はできるようになりません。計算力や暗算力を伸ばすことはできますが、文章を読む力、書く力、漢字を覚える力は別に身につける必要があります。公文なら、算数と一緒に国語にも取り組めます。
我が家では、国語については別の方法で取り組むつもりです。今はまだひらがなを読める段階ではないので、まずは大好きな絵本の読み聞かせを続ける。そして、ひらがなが読めるようになったら音読を大切にしたいと思っています。
つまり、そろばん一つですべての学力を身につけようとは考えていません。
費用面でも、絞らざるを得なかった
国語も英語も気になる一方で、費用面の現実もあります。公文は1教科ごとに月謝がかかる仕組みで、東京都の場合、1教科あたり月7,700円が目安とされています。算数・国語・英語の3教科を受講するとなると、単純計算で月2万3,000円ほどになる計算です。
将来的に下の子も習い事を始めることを考えると、公文で3教科をフルに受講させるのは、我が家にはハードルが高い金額です。結局、どのみち何か一つに絞らなければならない事情もあり、そこも踏まえてそろばんを選んだ、という側面があります。
英語は、今はまだ本格的にやらない
英語についても迷いました。公文には英語がありますし、早くから英語に触れることにも意味があると思います。
ただ、我が家では英語の優先順位を少し下げることにしました。その理由の一つが、行動遺伝学について調べたことです。
安藤寿康先生の著書を読んでいて、能力によって遺伝と環境の影響の大きさには違いがあることを知りました。私が見た範囲では、英語と数学にもその傾向に違いがあり、英語の方が数学に比べて環境によって伸びる余地が大きいという話が印象に残りました(具体的な数値については、原典を改めて確認してから、別記事で正確に紹介したいと思います)。
もちろん、「数学は遺伝で決まり、英語は環境で決まる」という単純な話ではありません。行動遺伝学でいう遺伝率も、個人の能力が「何%遺伝で決まるか」という意味ではありません。安藤先生自身も、遺伝要因を教育と対立するものとして捉えるのではなく、教育との関係を考えることの重要性を論じています。実際に、小学校6年生の双生児を対象として英語教授法を比較した研究も行われています。
それを知ったことで、私は「幼児期の限られた時間を何に使うか」を少し考えるようになりました。
今は数の力をそろばんでじっくり育ててみる。一方、英語はもう少し後から環境を整えて取り組んでもいいのではないか。そんな判断です。今は英語の歌を聞かせたり、以前は英語の動画を見せたりする程度。本格的な英語学習はもう少し先でいいと思っています。
「すぐに成果」より「長く使える力」を
こうして比較してみると、公文にもそろばんにも、それぞれ違った魅力があります。
公文は、教材を一つずつ進めながら、学習習慣を作りやすい。算数だけでなく国語や英語にも取り組める。そして、学習の進み具合が目に見えやすい。
一方、そろばんは、習得までには時間がかかるかもしれない。でも、長く続けることで暗算という非常に実用的な能力を身につけられる可能性があります。
もし「できるだけ早く成果を出したい」ということであれば、私は公文に魅力を感じます。
でも我が家は、今のところ中学受験を考えていません。大学受験までを長いスパンで考えるのであれば、幼児期に公文を選んだか、そろばんを選んだかだけで将来が決まるとは思っていません。
だったら、4歳の今は、息子が長く続けられそうなものを選んでみよう。できれば小学校卒業まで。本人が「もっと続けたい」と言うなら、その先も。そんな長距離走のつもりで、そろばんを選ぶことにしました。
次回は、「そろばん vs 公文論争、専門家・指導者の意見まとめ」について書きます。
参考文献・参考資料
- 安藤寿康「人間行動遺伝学と教育」『教育心理学研究』40巻1号、1992年、96-107頁
- 安藤寿康「遺伝要因が教授・学習過程に及ぼす諸効果―双生児統制法による英語教授法比較研究」『教育心理学研究』44巻2号、1996年、223-233頁
- 慶應義塾大学 安藤寿康研究者ページ・研究業績
- 慶應義塾双生児研究(Keio Twin Study)研究業績
- 公文教育研究会「公文式の特長―スモールステップの教材」
- 「くもんの月謝(料金)は高い? 2教科いくら?他教室と徹底比較」コエテコ byGMO、URL: https://coeteco.jp/articles/12715
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